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相談事例集 |
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■相談事例44: 敷金
1ヶ月前、6ヶ月間入居したアパートを退去した。敷金として家賃の3ヶ月分、12万9千円を予納していたが、申し出が遅かったとして半月分の家賃を請求され敷金から引くと言われた。そのほかに、さらに、畳の表替え、襖の張替え、部屋のクリーニング、鍵の交換などに要した費用を敷金から引くので、1 万7,925円が不足すると言われ、追加請求されている。
(30歳代 男性) |
敷金の返金を要求するように助言しましたが、返金がなかったため、相談者は少額訴訟を簡易裁判所に提起しました。家主側から「貸し家業全体に及ぶことなので受け入れられない。退去通知も受けていない」との答弁がなされましたが、最終的に8万円が相談者に返金されました。 |
賃貸住宅契約から発生するトラブルの9割以上は、「戻ってくると思っていた敷金が戻ってこない」というものです。なぜそのようなことが起きるのかといえば、「賃貸住宅の退去時における原状回復」の考え方に、貸し手側と借り手側とで差違があるからということになります。 ここでは、両者の主張内容は省略し、通説的な「賃貸住宅の退去時における原状回復」の考え方とはどのようなものであるかということについて紹介することとします。 このことについては、平成10年3月、当時の建設省(平成13年1月から国土交通省)住宅局が、(財)不動産適正取引推進機構に委託してとりまとめられた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」と題するレポートがそのスタートとされているようです。このレポートは、その後、平成16年2月に改められ、改訂版が出されました(以下「改訂版レポート」といいます。)。 改訂版レポートによれば、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。このように定義する前提には、学説・判例等が「建物の価値は、居住の有無にかかわらず、時間の経過により減少するものであること、また、物件が契約により定められた使用方法に従い、かつ、社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態であれば、使用開始当時の状態よりも悪くなっていたとしてもそのまま賃貸人に返還すればよい」としていることがあります。つまり、「賃貸住宅契約における原状回復」とは、「賃借人が借りた当時の状態に戻すものではない」ということを理解しておく必要があります。 改訂版レポートでは、建物の損耗・毀損を建物価値の減少と位置づけて次のように3区分し、貸し手と借り手の責任を次のように配分しています。
1. 建物・設備等の自然的な劣化・損耗等 (経年変化)貸し手側の負担 2. 賃借人の通常の使用により生ずる損耗等 (通常損耗)貸し手側の負担 3. 賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等 借り手側の負担
1)に該当するものの例として「日照による畳やクロスの変色」があり、2)に該当するものの例として「破損していない畳の裏返しや表替え」などがあります。このような費用は本来家賃に含まれるべきものと考えられているのです。 ここに挙げていないものでトラブルが多発しているものに「賃貸住宅の価値のグレードアップ」に関するものがあります。これは、「退去時に古くなった設備等を最新のものに取り替える等の建物の価値を増大させるような修繕等」をいい、具体例としては、「当該部屋全体のクロスの張替え」とか、「居室をあたかも新築のような状態にするためにクリーニングを実施する」ような場合が当たります。しかし、基本的に新しい入居者を迎え入れるためのリニューアル費用を退去者から徴集するという発想は合理的とはいえず、貸し手側の負担とされています。 以上、「賃貸住宅の退去時における原状回復」について、改訂版レポートを挙げて原則的な考え方を紹介しましたが、改訂版レポートに強制力があるわけではありません。現実には、種々の要件が複雑に絡み合っているケースが少なくありませんから、敷金の返還に関して協議する場合は、まず、「原状回復というのは、借りた時の状態に戻すことではない」という基本認識からスタートする必要があります。 |
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